日本の先発事情

C.J.ニコースキー

2007年5月18日


福岡、日本(AP) − さてヤンキースはロジャー・クレメンスと契約したわけだが、ザ・ロケットに再びピンストライプを着せるためにブロンクス・ボマーズ側が出した譲歩案がずいぶんと取りざたされている。

業界ではこれを「クレメンス・プログラム」と称している。柔軟なスケジュールのおかげでロジャーは乱暴な移動をずいぶんと免除され、家族とともに過ごす時間が増えている。もちろんそれはかれが実力で勝ち取った権利ともいえよう。

世界のこちらがわでは、どの先発投手も「クレメンス・プログラム」と同等の贅沢を味わっている。

もう一度やり直せるものなら、わたしも先発投手として来日したかった。噂の150球登板もなんのそのである。「イージー・ライフ」という表現ではかれらの気楽な生活の一端すら表現できないといえる。

まず目につくのが先発間隔である。ソフトバンク・ホークスの場合、先発は6人でローテーションを組む。これは他のチームもほぼ同じである。そしてシーズン中、月曜はだいたい試合がないという要素を計算に入れると、先発投手は週一回投げればいいのだ。

なんというか大学時代の投手ローテーションを思い出してしまう。セント・ジョンズ大の先発だった頃、わたしは毎週土曜の野球連盟ゲームで投げていた。アメリカでプロとして13シーズン投げてみれば、中六日がどれほど肩によいか、容易に想像がつくだろう。

中六日でも足りないかとばかりに、ホークスでは二日目ルールというものを実施している。先発投手は登板翌日に完全なオフ日を貰えるわけで、チームがどこにいようが球場に来る必要すらない。その日は休息と回復の日とされている。

想像してほしい。三連戦のためにサンディエゴまで遠征しながら、そのうちの一日がオフになるのだ。チームはパドレス相手に試合をしているだろうが、先発を済ませた投手はビーチでくつろいでいい。あるいは寝ててもいい。日帰りで家族に会いにいってもいい。なにをしようが無問題なわけで、チームから離れて自由を満喫し、5日後の登板に備えるだけでいいのだ。

もっともわたしは、先発に戻ったとしても二日目ルールを有効利用できないようが気がする。自分にはどうにも合いそうにない。日本の投手たちはまったく問題がないようである。

日本のシーズン・スケジュールは通常ホームで一週間、ロードで一週間という具合である。たまに短期ロードがある。たとえば大阪まで移動してバッファローズと試合をするのだが、その場合は同道する先発投手は登板が予定されている三名だけとなる。

すなわち他の3人はホームに残り、ヤフー!ドームからわずか25分の距離にある二軍施設で練習する。それもたいてい早あがりで、正午には帰宅してしまう。チームのほうは大阪でナイターに備えるのである。

先発陣がチームに同道している場合でも、実はなかなか顔を合わせる機会がない。先発投手がユニフォームに袖を通してダグアウトに現れるのは登板日だけである。投げないとなればクラブハウスのラウンジに引きこもり、練習をするか、マッサージを受けるか、試合をTV観戦するかである。一度わがチームのトップクラスの先発投手がほぼ2時間マッサージを受けているさまを見たことがある。かれの身体メンテナンスは試合開始から6回裏まで続いたのであった。

日本の他のチームでは、その日登板がない先発は一日分の練習を終えたら帰宅が許されるとも聞いた。福岡ではそこまではしないが、ほぼ近いものがある。

もちろん、ここまでチームから離れる自由があるとなると、先発陣がある程度おちょくりの対象となるのはやむをえないであろう。数週間顔を見なかったチームメイトに会った場合、わたしはよく「ヒサシブリ」と声をかける。すなわち"nice to see you"の意味だが、最後に会ってから長期間経過したときにのみ使われる表現である。

「アナタハダレデスカ?」も受ける。そのあとで日本語で丁寧に挨拶するとたいてい笑いがとれる。

「クレメンス・プログラム」の日本版にも当然ながら代償がある。

日本では先発投手に対する要求が厳しい。投手ミーティングでは、コーチがその日の先発に対して全スタッフの前で「完投命令」を出すのが慣わしといっていい。

はじめて「完投命令」を聞いたときはジョークかと思った。しかしコーチの頬には一片の笑みも浮かんでおらず、これは本気だとわたしも悟ったのであった。

これほど休息がとれるため、日本の投球数は天井知らずとなる。ホークスの先発左腕トシヤ・スギウチは151球を投じて今季2度目の完封を飾っている。

すでに先発二枚を怪我で失っている首位チームとしては、これはかなりのリスクであろう。しかしわたしが日本に対して発する「なぜ?」という多数の疑問と同様、この件でも答えは同じなのであった。すなわち「それが日本式」というだけなのである。

AP NEWS

The Associated Press News Service

Copyright 2006-2007, The Associated Press, All Rights Reserved