ステップアップ!

2008年7月17日 福岡

先日の対ライオンズ戦をご覧になった方は、あれが信じられないような大勝利だったことをご存知だろうか。ちょっと考えられないようなゲームだったのだ。なんといってもわたしの心に残ったのはヒデアキ・タカハシのピッチングである。最近リリーフに転向した26歳の投手にとって、おそらく一生忘れられない驚愕の一夜になっただろう。ゲーム開始の10分前に先発しろと命令されたのだから。

先発予定だったリック・ガトームソンがウォームアップ中に腰の筋肉を傷めてしまい、どうにも投げられそうにないという判断が下された。そこで前日に1イニング投げていたタカハシがリックの代役をつとめることになったのだ。タカハシのような立場にあるピッチャーは、試合前のこの時間帯ではそもそもユニフォームすら着ていないのが普通である。たいていトレーナーからストレッチを施してもらったりしていて、おおむね4回以降の出番に備えている。この時点では、精神的にも肉体的にも投球準備など出来ていないのだ。

それでもタカハシは出来るかぎりの準備をし、試合開始予定時刻からわずか数分遅れでホークスを背負ってマウンドに立った。一回を無失点で終えたあと、わたしはクラブハウスでタカハシに会い、通訳を介してとにかく気をつけろ、体に無理をさせるなと言い聞かせた。無理をして怪我をしないよう忠告したかったのだ。リリーフ投手がこの手の「緊急登板」をやる場合、要求されるのはせいぜい3イニングくらいで、残りはブルペン総出でやっつけるのが普通である。

タカハシは要求されたことをはるかに超えるパフォーマンスを見せてくれた。5イニングをシャットアウトし、1−0のリードを守ったのだ。4回、5回と投げるかれの姿はわたしにとって衝撃だった。状況を考えれば信じられないほど素晴らしい出来と言えるだろう。タカハシがさらに6回のマウンドにあがったのは、わたしにとってはショックだったといっておこう。最終的にライオンズ打線につかまり3点を許したのだが、だからといってかれがチームのためにやってのけた驚異の投球が否定されるものではない。結局ホークスは同点に追いつき、12回の攻防のはてに6−5で勝利したのである。

タカハシと同じくらい素晴らしかったのがうちの先発新人キャッチャー、ヒロアキ・タカヤだ。タカヤはここ一週間ほど先発キャッチャーをつとめていて、これまた素晴らしいインパクトを周囲に与えている。かれがやってのけたことを一覧表にしてみると、それは大変なものといえる。

タカヤは好投手ワクイからキャリア初の本塁打を放った。おかげで5回まで1−0のリードを保てたのだ。さらに1イニングで盗塁を阻止すること2回。これは今年のホークスにとって課題とされていた分野である。さらにゲームの後半、ファウルを追ってホークスのダグアウトに飛び込み、見事にキャッチしてくれた。タカヤが走った距離、ダグアウトの深さを考えれば、あれはわたしが見たなかで最高の好捕のひとつといえる。このすさまじいゲームの締めくくりとして、タカヤは12回裏にシングルヒットを放ち、サヨナラを決めてくれたのだ! いやまったく、12回もキャッチャーをつとめるというだけでも、たいがいの重労働だというのに。

すなわちタカハシとタカヤにとっては素晴らしい一日であり、ホークスにとっては大きな一勝となった。パ・リーグはシーズン最後までもつれそうであり、こういった勝ち方は本当に励みになる。チャンピオンになるための資質が自分たちに備わっていると自覚させてくれるからだ。